2024年9月16日月曜日

『言解きの魔法使い』4巻 感想

ある日、忽然と消える。驚き、悲しむ暇も与えられずに。不可解な謎を残して、あるいは、謎すら残さずに、忘れ去られてゆく。魔法使いの部屋は、「魔法が解けると水圧がかかったように押し潰される」「まるでそこに何もなかったように」。「世界は魔法使いを嫌ってるから」、彼らを想う時間すらも奪われ、正しき世の濁流に呑み込まれてゆく。
やがて、耳をすませば、彼方から波の音が聞こえる。微かな記憶の残り香が、どこからともなく漂ってくる。懐古、寂寥、無念、痛苦、……。それは偶然の現象に過ぎないのか、あるいは幸運と呼ぶべきものか。深海と宇宙の狭間に取り残される。しかし、どこかでこのように語り掛ける誰かがいるのなら。「あなたが良き夜を迎えることができるように、眠りにつくその時まで、私はあなたと共に在ろう」。
 
人を知り、認め、怒ることは、生きている者同士か、言葉の通じる者同士にしかできない。既に遠く離れてしまったものへは、いかなる言葉も届かない。過去も、過ちも、痛みも、何も消えることはない。その痛みや悲しみを抱えてなお、何を為すか。

「あの人が息をし易いように」
「少しでもあの人が自分自身を好きでいられるように」

できるだけ長く隣にいようと、せめて近くに在ろうと願うことは、単なる傲慢だろうか? その欲は切り捨てられるべきものか? 早々に捨てて、人は去るものだと言い聞かされ、また自らに言い聞かせ、ふと顔を上げてみれば、もはや看取る一人の元へ行けない。かつての矢萩の後悔は、あったかもしれない本当の暗闇への道標だった。二度と戻らぬ航海へ出てしまったのならば、一体何を他に語ることがあるというのか?
 
「理解して条件を満たすこと」によって、文字を回収する。言葉、もしくは、文字自体が意味を持つ場合、言葉を構成する文字の単位まで分解し、意味を捉え、自らの中で言葉を再構成し、実際に使う。魔女の能力によって、モノは人が理解できる最小の単位になる。それは最も純粋で、ときには残酷にもなり得る。どのように理解し使うかは、使用する側の意志に委ねられる。次に繋げるために、今を理解し、意志の導く方へ進む。さて、魔女がナツメや矢萩に出会うよりも遥か昔に、彼女を案ずる何者かはいたのだろうか?
 
想いと言葉が、蛍の光とともに、空に昇り、漂い、消える。昔日のあたたかな思い出を、
抱えて、忘れないように、空に還す。
「壊して作り直してしまう」。「僕は壊しきることと、壊さないようにすることしか知らない」。誰か、どうか誰かと、ただ一人の名すら忘れて、真っ暗になった世界、雲間の向こう、無に浮かぶ灯火に、叫ぶように願った日々。
すべてを燃やし、殺し尽くし、呪い、暴く者であること。ナツメは高らかに宣言するだろう。これが自分だ、やはりこれが「僕」なのだ! いつか全てが解ける日まで、ゼロに戻り再び始まる日まで、せめて悔いのないように生きるのだと!
 
戦うならば、証明し続けるしかない。晴れ渡る空の下、嘆きの地で。もはや想われることすらなくなった死者たちよ。あまりに軽く塵と消えた者たちよ。あまりに重く流離人の眼に焼き付いた現よ。
 

作業BGM:
Alcest “Kodama”
SYU(from GALNERYUS) “VORVADOS”
VS寳田八朔)