sincère
光の中を二人の男が歩いている。一人は前を、一人は後ろを。繋がれた手を頼りに、当てのない道を進む。果たして彼は本当に手を引いているのか、それとも繋ぐ手があると信じようとしているのか?初めに言っておくが、これは紛れもない夢だ。ただ一人の男のちっぽけな願いだ。俺がこうあって欲しいと思ったからこんな夢を見ているのだ。お前がどう思っているかは分からない。俺は自分の弱さ故に、片足の一つも差し出せないのだから。しかしだ、もしお前がお前の思うままに連れて行ってくれるのだとしたら、それはどこであろうと宇宙であり、遥か彼方の孤島でもある。祈ることくらいは許してくれないか? どこでもない場所で共に在れるのなら。その心の片隅に膝を抱えて蹲っている小さな子供は誰だ?もう俺には現在というものが分からない。不確かな羅針盤が嫌と言うほどに頭の中を回り続けている。確かに分からない、分からないが、精神の監獄に俺が閉じ込めた本当の思いに、お前以外の一体誰が気付けるとでも! これはお前のための願いだ。俺のための希望だ。見えるだろう、お前の血を、肉を糧にして、大地は花咲く! お前は生まれるべくして生まれたのだし、俺も在るべくして在るのだと信じたい。お前の薔薇は愛を根こそぎ養分とする。不安な予感と共に芽を出し、小さな針は体を蝕み、やがて耐えきれないほどの苦痛がお前の表へ蔓を伸ばし現れる。激痛に呻き、苦しみ、それでも未来を信じて疑わないお前に、俺は心から応えよう。お前の檻が壊れないのは、俺が鍵を持っているからだ。最後の一手を委ねるがいい。お前の最も美しいものを、俺は棘もろとも食らいつくしてみせよう! ああ、何て悲しく、優しいのだろう! お前の愛は俺の掌を血塗れにし、容赦無く口と喉と内臓を裂く。泣くな、そんな顔をするな。そうだ、それでいい……これが本当の俺なのだ。俺はお前をひとりにしない。その痛みは俺のものであるべきだ。お願いだ、どうかここにいてくれないか。触れ合えども感じることはできず、食らえども腹は満たされず、また食われようと心は満たされず、飽き足らぬ欲は互いの背を追い続け、やがて一方がもう一方を捕らえると縺れたままどこまでも天体の中を転がり落ちていく……。しかし、どこかの星には辿り着けるだろうさ。行こう、どこかに行こう。お前が行くということは今や俺が行くことと同じなのだから。鳥よ唄ってくれ、俺たちの愚かで愛おしい結末を。俺たちの願いを聞いてくれ。蜂は日の元に、蝶は夜の影に集うだろう。悠久は確かに存在するし、最果てもまた俺たちを見守っているのだ。彼方から軽やかな春の土の香りがする……。俺はここで待っているからいつでも来るといい。ただし、最後に会うと誓ったあの日のことは忘れてくれるなよ。